第29回(2021年(令和3年)9月12日実施)建設業経理士試験 2級 第1問・第2問の解答・解説
今回は2021年9月12日に実施された第29回建設業経理士試験の2級試験の第1問・第2問の解答・解説を作成しました。
解答
第1問(20点)
第2問(12点)
解説
第1問(20点)
(1)J 工事未払金 8,000,000/B 当座預金 7,985,000
/U 仕入割引 1,500
仕入割引を受けているので、今回の支払金額は 8,000,000 ー 1,500 = 7,985,000円になります。
仕入れ金を約束の決済日より早めに支払ったことによる割引を受けている場合の勘定は『仕入割引(収益)』、売上金を約束の決済日より早めに支払ってもらった時に割引をしてあげる場合の勘定科目は『売上割引(費用)』となります。科目名を混同しないように気を付けましょう。
余談ですが、値引き、割戻しと異なり、割引は売上・仕入れに直接関係するの金額ではなく利息的な性質の金額のため、営業外損益の区分に計上することにも忘れずに留意しておきましょう。
(2)B 当 座 預 金 1,400,000/C 有価証券 1,500,000
W 有価証券売却損 100,000/
売却金額:@280×5,000株=1,400,000円
帳簿価額:@300×5,000株=1,500,000円
差し引き:1,400,000ー1,500,000=△100,000円(売却損)
余談ですが、売買目的で所有している株式は「売買目的有価証券」または「有価証券」の勘定科目を使用しますので、仮に「投資有価証券」の選択肢があっても使用できませんので留意しておきましょう。
(3)D 建物 5,800,000/E 建設仮勘定 1,200,000
/B 当座預金 4,600,000
建物の完成前までに支払っていた手付金などの金額は、完成まで「建設仮勘定」として計上されています。
(4)Q 繰越利益 3,300,000/K 未払配当金 300,000
/N 利益準備金 30,000
[準備金の積立金額]
① 300,000(株主配当金)×1/10=30,000
② 1,000,000(資本金)×1/4=250,000
③ ②250,000ー(150,000(資本準備金)+50,000(利益準備金))=50,000
④ ①30,000 < ③50,000 よって積立金額は 30,000円
(5)S 社債発行費償却 120,000/F 社債発行費 120,000
社債償却費:600,000÷5年(社債の償還期限)=120,000
社債発行に際して支出した金額を繰延経理する場合、その支出金額600,000円は「社債発行費(繰延資産)」として計上されています。それを取崩す償却年数は「社債の償還期限(5年)」となります。
余談ですが、本来繰延資産に計上できる支出金額は、原則的にはその年に一括して費用計上しますが、その支出の効果が時期以降にも及ぶ場合は繰延資産として計上し、決められた償却年数以内で償却することが許されています。原則的に繰延資産とするわけでは無いことに留意しておきましょう。
第2問(12点)
(1)¥ 200,000
生産高比例法:3,000,000 × 4,000単位/15,000単位 = 800,000
定 額 法 :( 3,000,000 ー 0 ) ÷ 5年 = 600,000
よって2つの方法の差額は 800,000 ー 600,000 = 200,000円 となります。
(2)¥ 2,700,000
※前期まで「工事完成基準」を採用していたが、当期より「工事進行基準」を適用する場合、当期末に当期までの完成工事高・完成工事原価(収益・費用)を一括して計上します。
①当期末の完成工事高:18,000,000(請負金額)×※0.45(工事進捗度)=8,100,000
※(1,508,000(前期までの原価)+5,620,000(当期の原価))/15,840,000(見積総工事原価)=0.45(45%)
②未成工事受入金:18,000,000(請負金額)×30%=5,400,000
③当期末の完成工事未収入金:①8,100,000 ー ②5,400,000 = 2,700,000円
参考:当期末の仕訳は以下の通りです。
未成工事受入金 5,400,000 / 完成工事高 8,100,000
完成工事未収入金 2,700,000 /
完成工事原価 7,128,000 / 未成工事支出金 7,128,000 ※
※ 1,508,000(前期までの原価) + 5,620,000(当期の原価) = 7,128,000
(3)¥ 7,900,000
2年前に7,800,000円貸付けて、それから4年後に支払期限がきて8,000,000円受け取れる手形を受け取り、「償却原価法」で処理と指示されているため、満期保有目的債券を購入・保有した場合と同じように考えて、まず貸付時に7,800,000円を貸付金として計上し、7,800,000円と8,000,000円の差額の200,000円を4年間で50,000円ずつ貸付金の貸借対照表価額に加算していきます。
よって当期末の貸付金の金額は、7,800,000 + ( 50,000×2年 ) = 7,900,000円 となります。
参考:貸付け~回収までの仕訳
[20×1年:貸付時]
手形貸付金 7,800,000/現金 7,800,000
[20×2年・20×3年(当期)・20×4年:1年後・2年後(当期)・3年後]
手形貸付金 50,000/受取利息 50,000
[20×5年:4年後(回収時)]
手形貸付金 50,000/受取利息 50,000
現金預金 8,000,000/手形貸付金 8,000,000
余談ですが、手形貸付金に限らず、売掛金などの債権で回収金額との差額が利息的性格なものである場合は、同じように「償却原価法」で処理します。(参照:企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準 14項)
(4)¥ 15,000
5,000(前払利息取崩額)+350,000(当期支払額)ー340,000(支払利息P/L計上額)=15,000円
前払が5,000円あって当期の支払金額が350,000円なので355,000円になるはずだが、P/Lに340,000円しか計上されていないとすると「差額の15,000円は前払利息に振り替えられたはずだ」と落ち着いて考えましょう。
前払利息の再振替仕訳の貸借に迷った方は、仕訳をちゃんと書いて確かめてみると良いかもしれません。また、T勘定を下書きするとイメージして解きやすくなるかもしれません。
償却計算まとめ表(無形固定資産・繰延資産)
前回は無形固定資産である「のれん」、今回は繰延資産の「社債発行費」が、償却年数を与えられずに出題されましたので、無形固定資産と繰延資産の償却計算を以下にまとめておきます。
以下の表からもわかる通り、2級の試験で覚えているか問われそうなのは出題済の2つを含める黄色でマークアップした3ヶ所くらいかもしれません。
※ずっと使えるように少し1級論点が混ざっている点と、随分前に日商簿記等を受験後久しぶりに建設業経理士試験に挑戦されるか方のために表の下側に~改正の歴史~を記載している点はご了承下さい。
※「表示区分」のグレーの箇所は特に基準等の決まりはありません。
終わりに
今回の第1問は標準的な難易度、第2問は標準的~少し難しい難易度だったのではないでしょうか。
「第1問」は、特に(5)が少し難易度の高い問題や少し細かい知識を問う問題が出る傾向にありますが、今回の社債発行費の償却年数は「社債の償還期限」に合わせることをちゃんと覚えていれば、すぐに解答出来た問題でしたので、第1問全体として難易度は「並」と言えるでしょう。
知識があいまいで失点した方もいらっしゃると思いますが、それでも最低3問以上は死守しましょう。
第1問は、いつも簿記の基本的な仕訳を幅広く出題されますが、どれも押さえておきたい知識ばかりです。
第5問対策と併せて以下の論点が毎回繰り返し問われている鉄板論点なので、是非おさえておきましょう。
[第1問・第5問ともに]
・未収・未払の決済
・貸倒引当金や完成工事補償引当金などの期末計上・取崩し
・有形固定資産・有価証券の購入・売却
・有価証券・社債の期末評価・売却
・減価償却・無形固定資産・繰延資産などの償却
・剰余金の配当
ちなみに
(1)は前々回の第27回の(5)とほぼ同じ問題。仕入割引・売上割引は3回連続で出題されています。
(2)の有価証券の売却は2年ぶりの登場ですが、ほぼ毎回5問中1問は期末評価など「有価証券」に関する問題です。
(3)の有形固定資産の仕訳も建設業経理士試験では「建物」「建設仮勘定」「機械装置」に絡めてよく出題されます。
(4)の剰余金の配当も2回に1回くらいのペースで出題されています。
(5)は他に比べると少し細かい問題です。しかし前回は「のれん」でしたが、同じく償却年数が与えられない償却の問題でしたので、上の表の黄色マークの部分の3ヶ所を中心に覚えておきましょう。
知識があいまいだった方は、この機会に再確認しておきましょう。特に過去数回の過去問を見ておくと、 押さえる論点が見えてきやすいので参考にしましょう。
「第2問」は(3)の貸付金が少し見慣れない問題でしたが、「償却原価法」に基づいて落ち着いて考えれば解けた方も多かったでしょう。また(2)の工事完成基準から工事進行基準への変更も基礎的な問題ではないですが、建設業経理士試験受験者としては解答したい問題でした。合格基準を満たすためには、どちらか失点したとしても3問、最低でも2問は得点したいところです。
通常の簿記に比べ、「工事進行基準」や「生産高比例法」は建設業経理士試験でよく問われるところですので、ここでおさえておきましょう。
次回は第3問と第4問をアップする予定です。
➤第3問・第4問の解説をアップしました。
第29回建設業経理士試験の問題と解答用紙は主催機関である「一般財団法人 建設業振興基金」のホームページにアップされています。
(建設業振興基金ホームページの過去の試験問題のページ)
https://www.keiri-kentei.jp/exam/past/
※このページの解答・解説は会計知識向上のため当ブログ独自の見解・考え方をメモ・記録したものであり、
専門学校などの専門家の組織体のような素晴らしく完璧な解答・解説ではございません。
また、解答・解説・主催機関の見解・結果等を保証するものでもございません。
解答や解説に誤り等があっても当方では一切の責任を負いませんので、その点をご留意・ご了承のうえ、
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記載等に問題があった場合など記事を削除することもございます。
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