第27回(2020年(令和2年)9月13日実施)建設業経理士試験 1級-財務諸表- 第1問・第2問の解答・解説~理論問題の解き方解説
今回は2020年9月13日に実施された第27回建設業経理士試験の1級-財務諸表-試験の第1問・第2問の解答・解説を作成してみました。
今回は「理論問題」の学習方法・解答方法なども記載しましたので、これから1級を目指す方や2級を合格された方にも読んで頂きたい内容になっております。
解答
第1問(20点) ※キーワードのみを記載
問1
【売買目的有価証券】
[期末時点の評価方法]
[評価差額が発生した場合の処理方法]
・当期の損益として処理する。
【その他有価証券】
[期末時点の評価方法]
[評価差額が発生した場合の処理方法]
・洗い替え方式に基づき、
・全部純資産直入法 または 部分純資産直入法により処理する。
・「その他有価証券差額金」は税効果会計を適用しなければならない。
問2
【売買目的有価証券】
[期末時点の評価方法を採用した理由]
・投資者にとっての有用な情報は期末時点での時価。
[評価差額が発生した場合の処理方法を採用した理由]
・売却することに事業遂行上等の制約がない。
・時価の変動にあたる評価差額が財務活動の成果と考えられる。
【その他有価証券】
[期末時点の評価方法を採用した理由]
・(売買目的有価証券と子会社株式及び関連会社株式との)中間的な性格を有するものとして一括して捉える。
[評価差額が発生した場合の処理方法を採用した理由]
・事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を行うことに制約を伴う要素あり。
・国際的な動向から。
・「部分純資産直入法」は保守主義の観点から認められている。
第2問(14点)各2点
解説
第1問(20点)
はじめに
今回の解説はかなり長い記事となりましたので、時間の勿体ない方は必要なところだけ摘み読みしてください。
解説にあたって、まずはじめに「建設業経理士試験」の第1問は「記述問題」で戸惑ったり、尻込みしてしまう方もいるかもしれませんが、簿記検定1級の穴埋めなどにも出てくる「用語(キーワード)」を軸として、あとは"自分の言葉"で指定字数以内に収まるように説明すればちゃんと配点がくる試験です。
「"基準の文章"のとおりに書かないといけない」など深く考えてしまわず、"自分の言葉"で構わないので必ず解答しましょう。
特に今回の問1など理論を知らなくても計算方法さえ分かっていれば、"自分の言葉"でなら書けるという問題も多数出題されています。
「用語」についても"基準どおりの文言"で書けるのが理想的ですが、同じ意味の言葉で書けばちゃんと得点できると考えられます。
問1
【売買目的有価証券】
[期末時点の評価方法]
[評価差額が発生した場合の処理方法]
・当期の損益として処理する
キーワードは"時価""貸借対照表価額"と"当期の損益"です。
計算問題で当たり前に行っている"有価証券の決算整理仕訳"は
で規定されています。
この会計基準に従って皆さん"決算整理仕訳"を行っているわけです。
この会計基準の15に「売買目的有価証券」について規定されているので、お手数ですが「会計基準」をご参照ください。
問1の「売買目的有価証券」についての解答は
売買目的有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。
のように解答するのが理想的ですが、「会計基準」を一字一句暗記するのはかなり大変です。
そこで次の"解答テクニック"を参考に文章を書いてみてください。
この方法で問1の「売買目的有価証券」についての解答を書いてみましょう。
たとえば・・
「売買目的有価証券の期末時点の評価方法は時価評価し、評価差額が発生した場合の処理方法は帳簿価額と期末の時価との差額を利益または費用として計上する。」
(「①の部分」は青色で、「②の部分」はオレンジ色で色分けしています。)
はどうでしょうか。これでも十分得点は望めるのではないでしょうか。
「期末時点の評価方法」は自分の言葉では"時価評価"としか書いていません。「評価差額が発生した場合の処理方法」は計算を思い浮かべ、だらだらと文章にして書いているにすぎません。
少し文章が正確でなかったり、"当期の"が抜けていたりして少しマイナスされる可能性はありますが、合格点は狙えるかと思われます。
【その他有価証券】
[期末時点の評価方法]
[評価差額が発生した場合の処理方法]
・洗い替え方式に基づき、
・全部純資産直入法 または 部分純資産直入法により処理する。
・「その他有価証券差額金」は税効果会計を適用しなければならない。
キーワードは"時価"貸借対照表価額"と"洗い替え方式""全部純資産直入法""部分純資産直入法""税効果会計"です。
※ただし、"全部純資産直入法""部分純資産直入法"は用語ではありますが、"会計基準"にはこう書かれておりませんので基準のとおり書くほうが理想的ではあります。ここでは端的に解答を示すため、まだ250文字の制限もありますため、以下ように書くのが理想的かと考えられます。
「全部純資産直入法」・・評価差額の合計額を純資産の部に計上する。
「部分純資産直入法」・・時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄に係る評価差額は当期の損失として処理する。
字数を考慮して、どちらの書き方をしても合否に影響はないでしょう。
また文字数が少なくなってしまった場合は「評価差額は評価・換算差額等の区分に記載」「その他有価証券評価差額金という科目を用いて」などの文章を加えて書いてもよいでしょう。
問1のポイントは、あくまで「計算でやっている期末の評価方法と評価差額の処理方法を250文字以内の文章で書けているか」です。
毎回試験終了後に各専門学校から解答速報が出ておりますが、専門家集団の方々が作った解答も各学校により様々な言い回しになっております。当然受験生はそこまでの文章は書けない方が大半です。
このことからも「上記のポイント」がいかに重要かわかって頂けるかと思います。
「記述問題」に臆することなく、自分の知識を最大限発揮できるよう、全力で解答しましょう。
参照(売買目的有価証券):企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準 15
参照(その他有価証券):企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準 18
問2
【売買目的有価証券】
[期末時点の評価方法を採用した理由]
・投資者にとっての有用な情報は期末時点での時価。
[評価差額が発生した場合の処理方法を採用した理由]
・売却することに事業遂行上等の制約がない。
・時価の変動にあたる評価差額が財務活動の成果と考えられる。
キーワードは"投資者にとっての有用な情報"と"事業遂行上等の制約""財務活動の成果"です。
問2についてはすべてを書こうとすると文字数が足りないため、なるべく簡潔に書きましょう。
キーワードの前半2つはおさえておきたい重要語句です。
"上記前半の2つのキーワード"について解説します。
・投資者にとっての有用な情報・・・現在財務諸表作成に当たって(企業に投資してくれる)投資者に対して有益な(正確な)情報を提供することが重要と考えられているため十分な採用根拠となります。
・事業遂行上等の制約・・・通常会社が株式を購入する理由は、"お付き合い"や"支配目的"など様々です。当然"お付き合い"や"支配目的"などで購入した株式は株価が上がったからと言って、すぐに手放せるものは無い場合が多いです。
このことを会計用語的に書くと"事業遂行上の制約がある"となります。
「売買目的有価証券」の場合は単純に売買して利益を上げることを目的に所有しているため、"事業遂行上の制約がない"となります。
「会計基準」には"解答のような分け方"で書かれていますが、「期末評価」と「評価差額の計上」は表裏一体ですので、文字数が足りない場合両方の理由として"事業遂行上等の制約がない"と記載しても良いかと思われます。
【その他有価証券】
[期末時点の評価方法を採用した理由]
・(売買目的有価証券と子会社株式及び関連会社株式との)中間的な性格を有するものとして一括して捉える。
[評価差額が発生した場合の処理方法を採用した理由]
・事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を行うことに制約を伴う要素あり。
・国際的な動向から。
・「部分純資産直入法」は保守主義の観点から認められている。
キーワードは"中間的な性格を有するもの"と"事業遂行上等の制約あり""国際的な動向"です。(「保守主義の観点」は"文字数制限"からも重要度は低いでしょう。)
"上記前半2つのキーワード"について解説します。
・中間的な性格を有するもの・・・「その他有価証券」は売買目的、満期保有目的、関係会社以外のその他の有価証券すべてになり、1つずつ処理を決めていくのは大変なので"売買目的有価証券"と"関係会社株式"の中間的な性格を有するものとして一括して捉えると規定されています。
・事業遂行上等の制約あり・・・売買目的有価証券の時と逆で様々な理由で保有している「その他有価証券」はすぐに売却できないものも多くあるはずなので、"制約あり"と考え、「評価差額」は原則として"当期の損益"にはしないこととなっています。
"有価証券の処理方法の採用根拠"については「金融商品に関する会計基準」の「結論の背景」のⅣ 2の「有価証券」のところに記載されています。あまり長くない文章なので一読しておくことをお勧めします。
参照(売買目的有価証券):企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準 69,70
参照(その他有価証券):企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準 69,75,76,77,78,79,80
「会計法規集」などから探すのは大変かもしれませんが「企業会計基準」を作成・公表している「企業会計基準委員会(ASBJ)」のホームぺージから「会計基準」を見ることができるので是非一度は読んでみてください。
第2問(14点)
負債に関する概論の出題です。
第9回の問2も同じ論点からの穴埋め問題が出題されていました。
次に、わかりやすくするため問題文を図にまとめました。
※少し小さくて見づらい場合は拡大してください。
いかがでしょうか。
解答の内容が頭に入ったところで、この問題の"解き方"について考えていきましょう。
「記号選択による穴埋め問題」は空欄に記入するわけではなく、記号を選択すれば良いので、よくわからない問題が出た時もうまくいけば点数が取れるかもしれませんので、あきらめず解答しましょう。
他にもいろいろあると思いますが、自分にあったテクニックを探しましょう。
参考までに今回の問題に上記①~⑤を当てはめて”解答過程のイメージ”を作ってみました。
① 負債の話だと認識する。そのあと、第1段落は負債が3つに分けられると書かれており、第2~4段落はそれぞれについての説明文だ。と全体を把握できるとなお良い。
② 【建設業特有の勘定科目】
ア:工事未払金~エ:未成工事受入金【同一性質グループ 営業活動 vs その他の取引)】
ア:工事未払金 と キ:未払金 イ:完成工事未収入金 と カ:未収入金
【人グループ)】
ク:債権者 と コ:債務者 と サ:株主
【引当金グループ】
オ:評価性引当金 と シ:負債性引当金
【経過勘定項目グループ】
ス:未収収益 と セ:前受収益 ソ:前払費用 と タ:未払費用
イ: 完成工事未収入金 カ: 未収入金 ス:未収収益 ソ:前払費用
③ 1は【人グループ】からしか選べないから【ク:債権者】を選択。
(他の空欄を見て【人グループ】は終わりかもしれないと予想)
4は工事代金の前受分だから【エ:未成工事受入金】を選択。
(ここも項目と書いているので勘定科目が入るだろうと予想)
④ 5,6,7は全部「損益計算から生じた債務」の用語が入りそう。
なら資産の勘定科目はもう使わないな。
負債の話だし、資産の勘定科目は、はじめから使わなかったのかな。
経過勘定項目の【セ:前受収益】と【タ:未払費用】が入りそう。
でも1つ足りない・・最後の文章から非債務ということは【シ:負債性引当金】かな。あまり覚えてないので保留。
とりあえず【セ:前受収益】と【タ:未払費用】は選択。
⑤ ここまで埋めてみたが、2,3はやはり他に入れるものが無いので合っているかも。
あてはめて読んでも他の語句が入りそうには無い。
7も【シ:負債性引当金】で合っていそう。
このように"知らない"、"あまり理解していない"、"よくわからない"と感じる問題が出題されても、文章が空欄になっててわからなかっただけで、本当はその文章を理解できる知識を持ってるかもしれないので、是非"「解答テクニック」も養って下さい。
特に②で"グループ分け"しておくことによって、その後の③~⑤を考える際に大きく役立ちます。
終わりに
今回は第27回建設業経理士試験の1級試験の第1問・第2問について解説致しました。 第1問・第2問併せて難易度は例年並みであり、典型論点からの出題のため解答できた方も多かったのではないでしょうか。
・第1問について つまずいてしまった方は、臆せず"自分の言葉"で知っていることを書いて解答欄をしっかり埋めるようにしましょう。
特に1級を受験する方で「売買目的有価証券の決算整理仕訳」が出来ない方はいらっしゃらないでしょう。
①"問題文をなぞって"とりあえず主語を作り、②"自分の知識"で答えを書くという方法がおススメです。
問1はなるべく高得点を、問2は出来るだけ埋めることが出来れば合格圏内ではないでしょうか。
問2についても理論としては典型論点なので、この先他の試験などでも出会う可能性が高い論点なので"事業遂行上等の制約"という言葉は今回で覚えておきましょう。
・第2問について 「穴埋め問題」は試験中に分からなくなると、焦ってうまく解けない時があると思いますが、「記号選択式の問題」は全く解答できないということが無いため、(時間配分を決めたうえで)なるべく落ち着いて様々な角度から埋めれるよう努力しましょう。
解いていたらひらめく時もありますし、最悪適当にでも埋めて空欄にはしないようにしましょう。全部できなくても合格点を取れれば良いのですから。
今回は「理論問題」ということもあり"解答の解説"よりも"学習・復習方法"や"解答テクニック"に重点をあてて解説してみました。かなり長い解説になってしまいましたので大変だったと思います。ここまで読んで頂けた方ありがとうございます。そしてお疲れ様でした。
この記事で少しでも「理論問題」に前向きになれる方がいらっしゃれば幸いです。
次回は第3問・第4問をアップする予定です。
➤アップしました。
➤第27回建設業経理士試験 1級-財務諸表- 解答・解説 -まとめ-の記事へのリンク
第27回建設業経理士試験の問題と解答用紙は主催機関である「一般財団法人 建設業振興基金」のホームページにアップされています。
(建設業振興基金ホームページの過去の試験問題のページ)
https://www.keiri-kentei.jp/exam/past/
※このページの解答・解説は会計知識向上のため当ブログ独自の見解・考え方をメモ・記録したものであり、
専門学校などの専門家の組織体のような素晴らしく完璧な解答・解説ではございません。
また、解答・解説・主催機関の見解・結果等を保証するものでもございません。
解答や解説に誤り等があっても当方では一切の責任を負いませんので、その点をご留意・ご了承のうえ、
自己責任で閲覧してください。
記載等に問題があった場合など記事を削除することもございます。
なお、間違いや誤字などのご指摘はコメントで頂ければ随時訂正致します。
どうぞよろしくお願いいたします。